9
FEB
2006

現実

(当時30歳)

前を向いて歩いている。
いや、歩くというよりはむしろ、目の前にある壁を少しずつ削り落としている感じ。
暗い暗い。
なかなか前へ進めない。
でも止める気はなくて、削り落とし続ける。
体についてしまった汚れが気になって。
汚れる度に振り払い、また削り落としていく。

ただ、ふと振り返ればそこは青空で。
風もない。
大きな雲がゆーっくりと、東から西へ。
広がる世界。
息を深く吸い込んで。
大地に立つ。
実感する。
両手を空に向けて伸びをする。
それは想像以上の心地よさで。

土手に登って走り回る。笑顔。開放。
このまま空を飛べるかも、なんて空想。

でも振り返る事はしない。
前を見る。
何のためかなんて分からないし、別にどうでもいい。
自分の居場所を探すため、そこにいていい場所を見つけるため。

電動シャベルが壊れてしまったから、手シャベルを振りかざし、力一杯に壁にぶつけ続ける。
「ガシッ、ガシッ、ガシッ」
全体の壁から見たら、この一撃はなんて微力なのだろうと弱気になる。
いや、もしかするとこれが決定打で壁が崩れ落ちれ、目の前に新世界が広がるのかもしれないと希望を抱く。
浮いては沈む明日を想像しても仕方ない。
分かってる。
だから今は少しずつでも、この壁を削り落としていくんだ。

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